30年前にFileMakerで開発したシステムは、DXの成功事例だったと確信しています。
47年前。私は印刷会社に就職しました。デザイン課という名前の部署ですが、下っ端は版下作成が主な仕事です。印刷会社には約2年勤めその後独立してデザイン会社を立ち上げました。まあ、デザイン会社といっても地方のことなので、売上の中心はチラシです。当時はPC(デジタル)化などという言葉はまだ存在していませんでした。チラシ制作とは手作業の塊のようなもので、職人技が必要です。そのため一人前になるには時間がかかります。また長時間労働でもありました。
以下に、47年前のチラシの制作「版下・製版」工程をご紹介します。これらの工程の「デジタル化による改革」で大幅な生産性の向上が実現しました。DXの成功例と考えております。
版下制作工程 制作とは手作業の塊のようなもので、職人技が必要です。デジタル化はされていません。 | |
1 | チラシ掲載商品の手書きリストをクライアントから受け取ってから仕事が開始されます。 |
2 | クライアントの要望に合わせたレイアウトを作成し校正を行います。 |
3 | 校了となったレイアウトと商品リストを写植屋さんに印刷用の写植文字の作成を外注します。 |
4 | チラシ商品撮影をカメラマンに外注します。撮影された商品は、白黒プリントで納品してもらいます。 |
5 | チラシが4色印刷の場合は商品はカラーポジフィルムで撮影し、現像したカラーポジフィルムを納品してもらいます。 |
6 | プリントをハサミで商品の形に切り抜きます。 |
7 | レイアウトを版下(紙製)上に黒の烏口で描きます。 |
8 | レイアウト描画済みの版下にチラシ商品の写植文字を貼り付けます。 |
9 | チラシ商品の文字が張り込まれた版下にルミラーべースを張りつけ、切り抜いた商品画像を貼り付けます。 |
10 | 仕上がった版下にトレーシングペーパーを貼り付け、印刷の色分けを指定します。 |
製版工程 ここからは製版での作業になります。製版こそ職人技の極みです。デジタル化はされていません。 | |
1 | 制作された版下を大型アナログ製版カメラで撮影し印刷フィルムを作成します。 |
2 | 1色印刷の写真版を撮影します。4色印刷の場合は画像マスク版を撮影します。 |
3 | 4色印刷の場合は商品のカラーポジフィルムを製版で、印刷用高解像度スキャナーで4色分解のスキャニングを行います。 |
4 | 1色印刷の製版作業では、色指定に合わせて各種のマスク版を作成し複雑な工程を繰り返して印刷用フィルム(1色分)が作成されます。 |
5 | 4色印刷の製版作業では、色指定に合わせて各種のマスクとスキャニング画像の合成工程を繰り返して印刷用フィルム(4色分)が作成されます。 |
当初の「DTP」は、手作業で行われていたデザイン・制作を、PC上でデジタル化することでした。
印刷会社から独立しても、仕事はチラシ作成であり、手作業そのものの工程も変わりはありませんでした。長時間労働の日々は続きましたが、技術が職人の域に達したのか、仕事の量も増え売り上げは伸びていきました。撮影や写植の仕事も内製化を行った為、利益率も向上しました。賃貸だった事務所も、土地を購入し新社屋建設っを果たしました。この頃からPC(NEC製?)が話題となり始めたので、制作のデジタル化(PC上でのお絵かきレベル)の緒を見つけるべく色々と挑戦しましたが。全ての機器の解像度が低く、印刷レベルには到底届きませんでした。
30年前なりますが、中学1年生の息子へのプレゼントとして購入したMacintoshの性能に驚き、息子に操作を教わりながら勉強しました。これは制作に使えるぞと思いました。
30年前に突如、MacintoshによるDTP(デスクトップ・パブリッシング)デジタル制作を開始しました。社員誰一人にも告げず、全社員の作業テーブル上にローコストなMacjntoshを設置しました。出社した社員は呆然としていましたが、私はこれからの時代に向けた新しい制作の仕組みであること、いずれ他社も同じ道を辿るから、我々が先取りしようと説明しました。本当にこんな状態「誰一人としてMacintoshが使えない」状態でスタートしたのです。私が社員に順番に教えながら実制作をさせるという、気狂いじみたDTPでした。これこそまさにオンザ・ジョブ・トレーニングでしょう。
制作は手作業(版下・写植)などの工程をIT化=デジタル化することによって、各工程の業務効率を高め、更に外注費削減も狙ったのが初期DTPです。初期のDTPは、紙ベース上で行っていた手作業をパソコン上で行っていました「文字の入力も行う」デジタル化ではなくデジタル処理的でした。
しかしこの困難な要求に誰一人脱落せず、約1ヶ月で社員達のレベルは急向上しでDTPの体制は確実に動き始めました。ローコストなMacintoshですが性能が低い分は制作ワークフローの工夫でなんとかしました。高性能なMacintoshは買えませんが、低い投資額により利益は向上しました。
DTP作業工程 デジタル化されたDTPの作業内容を記載します。デジタル機器を使用した手作業と呼んでもおかしくはありません。
1:PC上のQuarkXPress上で商品文字入力=デザイナーが文字入力 |
2:1色印刷の場合:商品撮影(白黒)・現像・商品画像のプリント=アナログ的処理 |
3:カラー印刷の場合:商品撮影(カラー)・ポジフィルム現像・商品画像のスキャニング=アナログ的処理v |
4:DTP作業はPCのQuarkXPress上で商品文字と商品画像をレイアウト=アナログ的処理 |
5:出来上がったDTPデータは、QuarkXPress所定の形式でデータ出力し、出力センター(イメージセッター出力機)で出力=デジタル的処理 |
1:商品情報のテキスト「写植屋への外注費の削減」は、PCでテキストの入力作業をおこなう社員の給与に変化、少しは経費の低減あり |
2:プロの写植屋の高レベルの文字組み(書体も関係)は、PCで扱える書体のレベルと、パート社員による入力レベルでは再現できません。 |
3:手作業をPC上に移しただけなので制作時間が短縮されるわけありません。 |
Macjntosh上でデザインするといっても手作業のデジタル化でしかありません。当時東京では、DTPを開始し始めたデザイン会社も在りましたが、制作ラインに数多くの高性能なMacjntoshを導入し大変なコスト高に苦しんでいました。システムの効率と生産性を考慮しないで、過剰な設備投資を行った結果ですね。
制作のデジタル化はDXへのステップでした。この後「データベースパブリッシング」が登場します。
DTPが軌道に乗った頃、時代の先を見据えた新しい制作の仕組みの構築が始まりました。この仕組みに名前はまだありませんでしたが、後になってこのような仕組みの名前は「データベースパブリッシング」という名称でした。この新しい制作システムは、通常のデジタル化によるDTPとは全く違います。デジタルの本質的なメリットであるデータベースを利用した「データの保存・検索・データの再利用」という高効率なDTPの進化形であり、当時他には全く例を見ないシステムでした。
「FileMaker=データベースソフト」を導入し制作工程とコストを大幅に削減させたシステムフロー
「データベースパブリッシング」の作業フローをご説明します。何が通常のDTPと大きく違うのかは、図式で説明いたします。
1:広告商品の撮影 ですが「営業社員」が デジタル化カメラでデジタル(撮影マニュアルに合わせて)で撮影します。 ●撮影手法をマニュアル化して営業社員でもデジタルカメラで商品撮影を行えるようにしました。撮影された画像はPCで自動レタッチにより編集されます。スキャニング費用削減・カメラマン外注費削減・レタッチ外注費削減 |
2:撮影済みの広告商品画像(デジタルデータ)バッチ機能で画像加工(複数の画像ファイルに対して自動処理を行う。) |
3:広告商品リストの情報は「FileMaker」に「パート社員」が商品リストの商品を指定された項目別に入力し、商品情報の項目には画像ファイル名を入力します。=データベースに保存されます。後に、リストがExcelでデジタル化されてからは、Excelのリストを変換して自動登録が可能になりました。 商品情報の入力はデザインスタッフではなく「パート社員」です。入力専用画面への入力なのでスキルは問いません。テキストの形式指定は「コンバートソフト」にまかせることができます。DTPの場合は、デザインスタッフが入力します。入力しながらテキストを所定の形式に指定しなくてはなりません。 |
4:「FileMaker」に保存されたデータは再利用できます。この「データベース」による「データ再利用」こそ「データベースパブリッシング」の特徴です。 |
<実際の制作に入ります> この業務はFileMeker中心の操作です。この操作も「パート社員」で行えます。専用ボタンで簡単操作です。 |
手順ですが「FileMaker」で今回使用する商品情報(画像データも同時に)を「折り込み日」のキーワードで高速検索し収集します。この収集データを「コンバートソフト」の開始ボタンで自動処理を行います。「DTP用テキスト+商品画像」がセットになってQuarkXPressに(自動)流し込れます。 |
5:QuarkXPress上でレイアウトを行います。 |
通常チラシに掲載する商品のうち「新規は30%」ぐらいです。「残りの70%」は過去にチラシに掲載された商品です。つまり「データベース登録済みの商品」です。つまりチラシ掲載商品の「70%」の商品情報の入力工程が削減されます。
<コンバートソフトとは>データベースのテキストデータをDTPで使用する形式に自動変換します。またデータベースからの商品画像のファイル名を自動で収集してテキストデータとリンクさせて出力します。テキストに対して属性(書体・サイズ・色)と画像データを自動で設定することで、制作者の負担が大きく減ります。 当時はコンバートソフト当然無かったので、自社内でApple スクリプトで作成しました。
DXの成功には、高度で高額なシステムが必要なわけではなく、目的を達成するシステムが必要です。
30年も前に構築したシステムを、今更DXとしての成功事例として紹介するには理由があります。
現在DX推進が大きな流れになっています。IT化を経験した会社はPCなどの導入は進み、デジタル化によるメリットも理解されているはずです。しかしDX推進については、躊躇されている会社が多いようです。DXには高度なシステムが必要だとか、業務革新まで行えるスタッフはいないとか。マイナス要因が多いようですね。しかし、私が経験した「データベースパブリッシング」の構築に使用した「PCやソフト」のレベルは、現在では考えられないくらい低いレベルでした。しかし、現代では高性能なソフト・ハードは、選択に困るほど豊富です。コスト面を考えても色々な手段があります。重要なのは、会社の問題点をよく掘下げ、問題点と改善目的を見つけ改革する意欲ある成功事例として紹介いたしました。